行政書士&遺言執行士akito's blog in横須賀

行政書士の墓じまい・相続業務を小説風に面白おかしく書いています。今書いているのは、出版予定の三作目の小説です。

エンディングノートと死後事務委任④

 四回目です。

前回までは以下です。

べた打ちなので矛盾がないか不安です。

皆様の洞察力にかけています(笑)

ので、気になった点は是非お伝え下さい。

www.akihiroha.com

 

 
「あの、息子さんと言いますと」
「以前の主人との間にできた子よ。主人と別れた後、この子を引き取って育てていたけど病気で亡くしたの」
「そうだったんですか」
「生活するだけで精一杯、お墓なんてとてもじゃないけど買えなかったの。
そこで先生にお願いがあるの」
「私にできる事なら何なりと」
「できたらこの子と一緒に居たいわ。離れ離れは嫌。亡くなった今の主人とはあまり良い関係ではなかった。義理の母とも上手くいかなかったの。できれば嫁ぎ先のお墓には入りたくないわ」
「それは万一の時の事ですよね。無理して今考えなくともゆっくりと」
「先生、自分の体の事は自分が良く知ってるわ。おそらく長くは生きられない。私には時間がないのよ。多分聡、今の息子は私を今のお墓に入れるわ。息子の嫁も同じ考えよ。それが普通の考えよね。息子はね嫁の言いなりなの。私たちの為に何かをするなんて考えられない。それにこの子をお墓に入れるなんて事は絶対しない。先生の考えを聞きたいわ」
「妥協の産物ですが分骨をするのが無難でしょう。トシ様の願いを全面的に叶えるのは正直言って厳しいと思います」
「私は死んだあとだから何も言えないしね。エンディングノートで書けばよいかしら」
「エンディングノートに法的効力はないですのでお勧めできません。私に言わせればただのおままごと。尤もエンディングノート村が市場に出来上がっています。失礼、今のは忘れてください」
 
あら、意外と本音で話すわね。
でもよかった。
かまをかけてごめんなさいね。

「じゃ遺言かしら」
「遺言に書いて効力が生じる事柄は決まっています。この場合自分の入るお墓のことですので、遺言より死後事務委任契約を誰かと結ぶほうが確実です。ただそうはいってもお骨の所有権は葬儀を取り計らった者にあります。仮に万一の場合にご子息が葬儀を取り計らうのであればお骨の処理もご子息が決めることになります」
「じゃ私の望みは叶えられないってこと。この子と別々になるのだけは避けたいわ。何とかできないかしら」
「今からご子息と話し合うことは難しいでしょうか」
「それができたら苦労しないわよ。ねぇ先生、両方に書くのは駄目かしら」
「両方というのは先ほどのエンディングノート、遺言、死後事務委任契約のどれかという意味ですか。どうでしょうかね」
「そうよね同じことを書いてもね。駄目なものは駄目よね」
「先生、黙りこくってどうしたの」
 
暫くして先生が私にゆっくりと語りかけた。
 
「トシ様、こういうのはどうでしょう。別々の事を書き残すというのは。つまり一つ目は受け入れるのが難しいもの、二つ目には受け入れやすいものを書きます」
「どういう事かしら」
「心理学は私の専門ではないのですが、何かの本で読んだことがあります。最初に難しい要求をして次にハードルの低い要求をします。そうすると二つ目の要求は受け入れやすくなるそうです」
 
それから一時間かけて先生と話し合った。
出した結論はこうだ。
まずエンディングノートには実家のお墓ではなく樹木葬に埋めてもらう事を記載する。
まさか亡き息子の骨壺を捨てることはないと思うけど間違いがあるといけないので先生に預ける。
勿論書いた内容をしてくれたら一番だけど可能性は低い。
遺言書を先生に預ける関係上、遺言書ではなく早く目につくエンディングノートに書くことにする。
そして死後事務委任契約書には本命の事を書く。
つまり分骨して一部は嫁ぎ先へ残りは亡き息子の遺骨と共に海に撒いてもらうように記載する。
妥協の産物そのものだがこれはやむを得ない。
「では緑川様、お話しされた内容で準備いたします。準備ができたら確認してもらう書類を出来るだけ早く持参します」
「先生、よろしくお願いしますね」
「さっさく事務所に戻ります。今日はありがとうございました」
 
まだ死ねない、あと一つやる事がある。
これをやると鬼母と言われるかもしれないがやむを得ない。
先生は驚くかもしれないけど、これでも遺言の事を一生懸命勉強したのよ。