行政書士開業準備中~墓じまい編12(応用編5)

「亜希子! 亜希子!」

遠くで父の声が聞こえる。

母の声も聞こえるが、うまく声が出せない。。。

目の前が暗くなってきた。

過去の出来事が走馬灯のように現れた。

 

 

7年前、介護施設。

「こんばんは。」

「こんばんは、いつもありがとうございます。」

「とんでもありません、今日はお父様ご機嫌でしたよ。」

「父は、迷惑かけていませんか。怒りっぽいところがあるから。」

「いえいえ、怒ったことなんか一度もないですよ。」

「それなら良かった。介護大変じゃないですか。」

「私、この仕事好きなんです。勿論楽じゃないですけど。」

「そうですか、すみません変な事聞いてしまって。それでは失礼します。」

「いつもありがとうございます。」

感じの良い人だな、、、。

 

 

 

6年前、レストラン。

「製薬会社のお仕事って、、、やっぱり激務なんですか?」

「それは会社にもよりますし、部署によります。私のように臨床に携わる人間は、、、楽とは言えないですね。それより亜希子さんは事務職に移動するんですか?」

「はい。介護の仕事は好きなんです。でも一度腰を痛めて癖になってしまって。コルセット巻きながら頑張っては見たんですが、、、夜勤中も痛みが酷い時があって。。。」

「そうなんですね。激務ですもんね。」

「和彦さんこそ。」

「和彦で良いですよ。」

 

 

 

5年前、介護施設、事務所。

「昨日父の葬儀が終わりました。施設の皆様には本当にお世話になりました。」

「こちらこそ、この度は本当に残念でした。高山様は静かな方で、でもたまにお茶目なところもあって、、、いつまでもお元気でいてほしかったです。

高山様。今、川崎さんにお父様がお使いになられていた物をまとめてもらっています。もうすぐ降りてくると思います。」

「では私も手伝いに行きます。」

 

「亜希子さん、ありがとう」

「和彦さん、、、この度は本当に残念でした。」

「父は88歳、長生きした方だと思います。この施設で過ごせて本当に良かったと思います。今頃お袋と楽しく話してる頃ですよ」

 

 

 

4年前、レストラン。

「僕は44です。立派なおじさんです。亜希子さんより一回りも上です。」

「私だって32ですよ。」

「亜希子さんを幸せにする自信はないです。」

「そうなんですか(笑)」

「でも僕が幸せになる自信はあります。高山亜希子になって下さい。」

 

 

車内。

「亜希子!」「亜希子!」

「あれ、お父さん、お母さん。」

どうしたんだろう。

おじいちゃんの墓じまいが終わって、、、。

電車に乗って、、、

「亜希子。」

思い出した。

「和彦さんが、会社で倒れたって、、、それで、、、。」

後は涙で言葉にならない。

 

 

葬儀。

住職の声が耳に入って来ない。

 

幸せな4年間だった。。。

 

葬儀の直前、銀行口座が凍結された事を知った。

小耳に挟んだことはあるけど、本当に凍結されておろせなくなるんだ。

銀行の人が、戸籍を全て持参して、相続人を確定しない限り貯金を下ろせないと言った時心底腹が立った。

それでも実家の父から少し借りることができて、何とか葬儀の目途がたった。

中古のマンションも、掘り出しもので二人で一括で買って、のんびりと暮らすはずだったのに。

人生ってなんだろう。。。

一人になってしまった。 

四国のお爺さんの 墓じまいに行くと言った時、和彦さんの顔がいつもと違った事を今思い出した。 

どうして気づいてあげられなかったんだろう。

 

来週、和彦さんの戸籍を集めて、凍結された口座を解約しないと。

やる事が山積みだ。

でも何で、戸籍なんて必要なんだろう。。。